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神戸地方裁判所 昭和39年(行ウ)17号 判決 1966年6月21日

原告 増戸徳治

被告 国

訴訟代理人 樋口哲夫 外三名

主文

一、原告の被告国に対する請求および被告井上仙太郎に対する請求はこれを棄却する 。

二、原告の被告兵庫県知事に対する訴を却下する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告は、被告兵庫県知事に対し、県知事がした本件買収ならびに売渡処分の無効確認を求めているが、原告としては右各処分の無効を理由として国あるいは被告井上に対し、本件土地の所有権確認、所有権取得登記の抹消登記手続、明渡請求等を求める等現在の法律関係に関する訴によつてその目的を達することができるから、県知事に対する訴は行政事件訴訟法第三六条の要件を欠き不適法として却下すべきである。原告はたとえ、被告井上に対し所有権取得登記の抹消手続を命ずる判決をえても、県知事に対する無効確認判決がないかぎり、その登記の抹消は事実できないというが、それは独自の見解であつて採用できない。

二、<証拠省略>によれば本件各土地は元々、地目が田又は畑であるばかりでなく現実にも田又は畑として使用され昭和二二年三月自創法により買収が行はれたときも農地であつたこと、被告井上仙太郎は父が在世中の明治年間以来ここを耕作し来り、大正年間原告はここの持主になつたとき被告井上に対し租税だけ井上の方で負担して引続きここを耕作しておいてくれといつたためその通り地租を井上が負担して耕作して戦后に至つたこと、そのため当時の所轄農地委員会たる旧良元村農地委員会は被告井上が使用貸借していた農地と認定し所定の買収手続を行い、国は昭和二二年三月三一日付を以て原告よりこれを買収し被告井上に売渡したこと、の各事実が認められる。従つて被告国は適法な手続を経てこれを買収したものでこれを無効と解する余地はない。この点原告本人は以上の認定に反する供述をなし元々宅地であつたような供述をなしているが信用し難く、原告提出の甲第四、五、六号の写真は買収、売渡終了后ジエーン台風等で被告井上の方で余り耕作をしなくなつてから后の写真なりと認められるので前記認定を覆すに足るものではない。次に原告本人尋問の結果によると被告国は本件買収に当り原告に買収令書を交付したことはないと供述し被告国もこの点、買収令書を交付したことを書証により立証していないが自創法による買収が行はれてから既に一五年余も経過した今日買収令書を交付した旨の受領証等がないからといつて直ちにその手続が履践されなかつたとは認め難いのでこの点を以て買収を無効なりと認めることはできない。従つて、被告国の行つた買収等が重大明白な無効なものと認める余地はない。のみならず被告井上は前記の通り売渡しを受け昭和二四年七月七日には所有権移転登記を完了し再来一〇余年、平穏、公然に全く自分の土地なりと信じて占有し来り、且つその占有の取得が国や県知事の手続を経た完全なものと信じたものであり何ら過失の存在を認むべきものはないから同被告は民法一六二条二項により完全な所有権を取得したものというべきであるから、被告国及び井上に対する原告の請求はこの点に於ても認容するに由ないからこれを棄却することとし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森本正 菊地博 保沢末良)

目録<省略>

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